2025年11月25日
Ⅰ クマの異常出没と被害を概観
私の父母の実家が秋田県で親戚も多く(角館市、大曲市、美郷町、横手市、湯沢市等)、日常生活や事業(農業、除雪業、飲食、観光)に支障をきたしていること、立てこもり・死傷者が近隣で多発していること、回覧板等にて具体的なクマ対策の広報が地元に流れていないこと、秋田県知事より自衛隊への要請がなされたことから、決算対策も兼ね緊急で秋田へ行って参りました。
1、税理士なのに、なぜクマなのか
税理士になる前は、山岳ガイド・ネイチャーガイド(尾瀬、武尊山、日光白根山)をしており、鉄砲撃ちの親方(頭)の立場にある方の元で仕事もしておりましたので、鉄砲撃ち仲間の方々から山のルール含め色々教えて頂く機会がありました。ニホンジカ・ツキノワグマ・ニホンザル・カラスなど駆除対象の生物に関しては、実践的対処方法等今でも非常に役立っております。
余談ですが、当時こちらの職場には覚⚪︎剤や⚪︎人、指の⚪︎い方など様々なスタイルの人生を歩まれた方々がおり、昼食時には逃亡や隠蔽の方法を語り合うなど、異次元世界を随分体験させて頂きました。例えば、「群馬県警に追われたとして、逃げるなら尾瀬がいいぞ!」「どうしてですか?」と聞くと、「尾瀬へ行けば栃木・福島・新潟どこにでも行けて逃げ切れるからなあ」と。「へ〜〜〜、なるほど〜〜〜」「でも、流石にそれは無理じゃありませんか?」「フッフッフ・・・」本気か嘘か場を盛り上げたいだけの話なのか真偽不明ですが、沢のせせらぎや鳥のさえずりが響きわたる山奥の現場だと、なぜか余計に盛り上がるんです。
ちなみに「尾瀬」の名前の由来の中に「悪勢(オゼ)」が起源だとする説があります。以前はこの説の意味が分からなかったのですが、犯⚪︎者が逃亡したがる場所という話を聞くに、悪勢(オゼ)説が一番フィットするわ〜〜〜と妙に納得させられました。昔も今も変わらないのかもしれませんが、令和の山はクマがウジャウジャいるので警察に追われるより山でクマに追われる方が危険な気がします。
さてさて、冗談が過ぎましたが、山奥だと何でもかんでもやりたい放題の凄い世界が30年前は現実にありまして。昔の山は規則も緩かったため、皆んなで「山」「川」「湖」「林道」「温泉」を楽しんでおりましたね。←重要!
また、当時は近所の高校の社会人講師として8年程フィールドにおいて動植物の生態や森林生態系について教えていたり、群馬県レッドデータブックの作成にあたり、学者の方々と行動していたこともありましたので、地元の方々、鉄砲撃ち、ガイド団体、自然保護団体、自治体、ビジターセンター、教師、大学教授、虫屋、メディア等、様々な方と接する機会に恵まれました。
2025年はクマの異常出没が約20年ぶりに発生したこと、20年前を遥かに上回る人身被害が発生していることから、親戚筋とクマ対策をして行く必要から30年前の20代半ばからの山奥生活を顧みながら、木本類・哺乳類・昆虫類との関係性を考慮しつつ、クマの異常出没原因を類型化してみました。
2、クマに襲われない方法を聞いてモヤモヤする方へ
TVやSNSでのクマ報道を聞いても、専門家によるクマの性質や対策を聞いてもモヤモヤ感が抜けない方が多いようですね。「クマは本来臆病という割には凶暴そう」、「山にエサがないから仕方なく人里に出没している?」、「冬眠期になれば山へ戻る、いや穴持たずがいると聞いた」、「クマに出会ったら後退りしながら逃げましょう」、「クマ鈴は効果があるからつけましょう」、「クマに出会ったら地面に伏せて防御体制をとりましょう」、などなど。本当にそうなんだろうか、大丈夫なんだろうか、言ってることは分かるけど、どうしたら襲われないの?
心配症の方に向けてアドバイスするなら、人里や市街地に出没するケースで襲われない方法とは「家」か「車」しかありません。
山の場合は?観光地の場合は?バイクや自転車に乗っていたときは?キャンプしていたら?スキー場は?歩いていたら?
二十数年前にまとめた下記URLもご参考頂きたいのですが、出会う場所、各自の年齢・性別・性格・運動能力、クマに対する知識、経験、道具を揃える資金力、法律知識の有無でアドバイス内容は全く異なってきます。
500万円の税引前利益が発生した場合に、納税者の希望や進むべき道次第で節税対策が真逆に振れることは良くあることでして、クマ対策もその人の状況で真逆になることがあるのです。
一読してもよく分からないと思われた方は、一発顔面にクマの攻撃を喰らうとその後の人生は人前に出られないか、胃ろうで生きていかなければならなくなる。ここまで言えば、どう判断すべきか自ずとなすべき行動は見えてくると思うのですが、残念ながら多くの方が他人事なんです。このリスクを想像できない方が30年以上経っても相当数おり、もう・・・どうぞご自由にとしか言わざるを得ないのが現状。ちなみに弊所の職員は、千葉県に住んでいて良かったと言っております。
ガイドの眼…尾瀬、武尊、日光白根山「クマ対策」
3、クマはグルメで偏食・美食家だが、貧乏生活にも耐えられる
夏場のひもじい時期に小さな小さなアリを舐めて食い繋ぐより、冬眠直前に中身が少ないペラペラのブナの実を枝から焼き鳥の如く何千回としごいて食べるより、人里の美味しい米や蕎麦、トウモロコシ、カボチャ、柿、クリ、果樹、ハチミツ、ニワトリ等の品種改良された極上グルメの旨味ある農畜産物をノンビリ腰掛けながら食べる方がクマだって楽で好きなんです。
クマは食に敏感で超偏食家です。
30年以上前から人家周辺への出没原因は農畜産物や人の食糧・廃棄物がほとんどを占めます。
参考までに、クマ肉は美味しいですよ。クマ肉は鉄砲撃ち(雪山の方の料理でしか食べたことがありませんが、クマ汁は何度食べてもうまい。何杯でもいけます。油は特に癖がなくサラサラしているためチャーハンが最高。
4、保護政策の転換期
某保護協会は30年以上前から奥山放獣、春熊駆除禁止、狩猟期間の短縮等、駆除より奥山保全・共存・保護傾向にありますが、当時と比べ環境は大きく変化し、山のポテンシャルは爆増、森林性生物はすべからく増加傾向にあり森を保護する必要性がなくなってきていると考えます(シカの駆除による「森の保護」は別)。哺乳類だけでなく鳥類や昆虫類どころかヤマビル・マダニも猛烈に増えており、近い将来、芝生のある公園で子供やペットと遊ぶことが出来なくなる日が来るかもしれません。
政府によるクマ被害対策パッケージが11月14日に公表されましたが、春熊駆除・駆除人員の養成・中期的個体数削減がようやく盛り込まれており感慨深いものがあります。今まで自治体任せで全く動きませんでしたから。カムチャッカ半島やルーマニア、トルコ、スロバキアのようにならないよう。
5、ツキノワグマとの遭遇体験
最近は本業の税理士業務が忙しく、新型コロナウィルス感染症拡大の関係もあり本州の山へ登っていないためツキノワグマに出会っておりませんが、山奥に住んでいた時代は数十回程度ツキノワグマに遭遇しました。ちなみに北海道のヒグマには今年6頭と遭遇しております。

2025年に遭遇したヒグマ
以下は数十回程度の遭遇の中から抜粋したものになります。
(1)山頂付近の源流から沢沿いを下山していた時のこと。背後から異様な気配を感じ振り向くと、クマが歯を剥き出しにして唸り声を上げながら私目掛けて突進してきました。数秒の出来事でしたが、人生終わったと思いました。
(2)山奥では2箇所の一戸建てに住んでおりましたが、両方とも玄関に突進される経験をしました。夜に突然、玄関をぶち破るが如く「ガシャーン!」という物凄い音が鳴り響くも、確認するのが怖すぎて開けられず。2箇所とも沢沿いで集落の一番上流部だったのもあり、酔っ払いが来るとは考えられません。翌朝確認してみると、玄関先にクマの足跡。今年も玄関目掛けて突進してくるクマの映像がいくつかありましたが、クマは薄っすら明るい玄関、もしくは奥が暗い玄関を、身を隠す場所として選んで入ってくるようで、実体験しておりますからよく分かります。怖いですよ。
(3)同じく夜中に枝をバキバキ折る音が鳴り響くため、何事かと近所の方に聞くと、クマが柿の実を食べに来ているとのこと。直ぐに罠が仕掛けられ捕獲されましたが、それまでは夜間、恐ろしくて玄関を出て車に忘れ物を取りに行くことすら出来ませんでした。クマ出没地の方々が、夜間どころか日中も動けないという恐怖は良くわかります。
(4)山奥(雪山含む)で急斜面をトラバース中、又は道なき道を歩いている時に、足元でクマに吠えられたことが3回(穴に入っておりました)。1〜2mの距離での遭遇が5回(内、親子グマ2回)、よく無傷でいられたと思います。
(5)他にも3km先で発見したクマが10m内外まで来てしまった件など色々経験しました。
(6)当時も通学路にある木にクマが登っていた!中学校の給食室にクマが侵入して荒らされた!釣りをしていたおじいちゃんが顔面を引っ掻かれた!ハンターが歩いていた時、木のウロからクマが急に飛び出して来て噛まれた!クマが突如、頭上の木から落ちてきた!など、30年前も色々と危険でした。
ツキノワグマだけではなく、ニホンジカもカモシカも敵意を剥き出しにして来た場合、とても恐怖を感じますし、サルも攻撃的だと小賢しい手法を取ってくるので厄介ですし怒りの表情が人間っぽくて怖いです。
最近、野生動物が人慣れし人間を甘く見るようになったとの報道がありますが、人間の方が野生動物を甘く見ていたのではないでしょうか?
6、近年におけるクマの重大事故(抜粋)
当事者となる可能性がある気になった事故。
(1)ツキノワグマ・スーパーKによる被害
2016年5月〜6月秋田県鹿角市にて山菜採り中(4人死亡、4人重軽傷)…捕食された痕跡あり
(2)ヒグマ被害
2025年7月福島町において新聞配達中(死亡)、同年8月斜里町羅臼岳登山中(死亡)、
2019年7月〜2023年6月標茶町・厚岸町における家畜襲撃事件oso18
2023年5月幌加内町朱鞠内湖にて釣り中(死亡)、同年10月釧路市阿寒町シュンクシタカラ川沿いをマウンテンバイクにて走行中(重症)、同年10月福島町大千軒岳登山中(1名死亡、2人負傷)、
2021年6月札幌市東区における住民4人(重軽傷)、同年7月福島町にて農作業中(死亡)、同年7月紋別郡滝上町浮島湿原へ登山中(死亡)
7、ヒグマの対策
ツキノワグマと異なりヒグマに関しては、個体数が増加した理由として春熊駆除禁止とエゾシカの増加(死体放棄等の問題含む)が主な要因とされ、研究者、道民もある程度意見の一致・浸透が見られることから、今後は政府によるクマ被害対策パッケージの状況次第といえます。なお、当該政策が北海道知事の対応に影響を及ぼすか、ヒグマ駆除を受けたハンターの猟銃所持許可取消処分に対する最高裁判断に影響を及ぼすか等、ヒグマに関して外野部分でも見逃せない状況にあることを改めてお伝え致します。
さらに、知床のウトロ地区に関しては、すべての北海道エリアと対応が異なるため(尾瀬と同様に特殊な文化や経緯がある)、ノーコメントとさせて頂きます。
Ⅱ 過去からの環境遷移
クマの異常出没は「複数の要因が絡み合っている」と専門家は言いますが、では具体的に何なのか?曖昧に誤魔化されたような騙されたような何か釈然としない方も多いのではないでしょうか。
様々な権利関係が絡み合っているため表に出しにくい内容、原因と結果の証明が現在の科学技術で明らかに出来ない事象、そうは言っても少なからず影響を及ぼしていると認められるものについては総合勘案の上、現実に起きていることとして列記することに致しました。
1、江戸時代以前
予測レベルだそうですが、今のニホンジカやツキノワグマの頭数が江戸時代には存在していたそう。ニホンオオカミも生息し、生態系が維持されていた時代。決してニホンジカの頭数が過密状態ではなかったとのこと。
奥日光では、日中はクマゲラが囀り、夜にはオオカミの遠吠えが谷間に響き渡る世界。自然は奥深かったのでしょう。
南総里見八犬伝で語られているように、日光は未知なる世界で妖怪が巣食う恐怖エリアとされていたのも頷けます。
2、過去30年前からの確認事項(説も含め)…対象エリアは新潟〜北関東〜東北6県
(1)伐採後の植林地、スキー場、ダム周辺域→草原化→ニホンジカ・エゾシカ(以下「シカ類」という)のエサ場増加、生息エリア拡大
(2)林道(スーパー林道含む)整備→イノシシ、シカ類の生息エリア拡大
(3)温暖化(夏場の高温、降雪量の減少、早期雪解け)→イノシシ、シカ類の積雪地死亡個体減少と生息エリア拡大、ツキノワグマ・ヒグマ(以下「クマ類」という)の冬眠期間縮小
(4)山奥・峠の道路除雪→イノシシ、シカ類の積雪地死亡個体減少と生息エリア拡大
(5)融雪剤散布による無機塩類の供給(カルシウム、マグネシウム、ナトリウム等)→牧場で見かける岩塩を自然界のシカ類に無償提供している状態→シカ類のエサ場増加、積雪地死亡個体減少
(6)イノシシ、シカ類の増加→フロラ(植物相)の単純化→左記哺乳類が好まない植物が占有(キク科、有毒植物、シダ植物等)→生物種間で食料の奪い合い→クマ類のエサ場減少、里山への侵入
(7)シカ類の増加→発砲後・罠猟後、車両・列車衝突後の死体放置→肉食好む個体の出現→クマ類の人間への接近・捕食、冬眠期間縮小
(8)人里の人口減少1→耕作放棄地増加→マント群落・ソデ群落の形成→隠れ家増加、ヤマブドウ・サルナシ等エサ場増加→学習→クマ類の里山への侵入、人馴れ個体増加
(9)人里の人口減少2→空き家・放棄果樹(柿、栗、桑)の増加→エサ場増加→学習→ツキノワグマの里山への侵入、人馴れ個体増加、冬眠場所確保
(10)人里の人口減少3→山奥・山際の田畑管理が困難→見回る人の減少→エサ場増加→学習→クマ類の里山への侵入、人馴れ個体増加
(11)農地、採草放牧地での農産物(残滓)・牧草の捕食→学習→シカ類、クマ類の里山への侵入、人馴れ個体増加
(12)登山、キャンプ、釣り、ドライブ、観光、工事現場、伐採業等山での飲食物の廃棄・ゴミ捨て、野生動物へのエサやり→エサの認識・学習→クマ類の里山への侵入、人馴れ個体増加
(13)環境庁(現環境省)によるレッドリスト作成以後、生物の保全・保護活動が重点施作→個体数調査も過小評価の傾向→増加生物の駆除対策が後手→個体数増加→シカ類・クマ類の里山への侵入、人馴れ個体増加
(14)環境系保護協会・団体による保護主張が駆除政策への転換を停滞させる結果を招く→クマ類の個体数増加、生息エリア拡大
(15)生息数が過剰気味になっても、従前通りの保護活動(奥山放獣、春熊駆除禁止)が維持継続され方針転換出来ず硬直的→クマ類の個体数増加、生息数エリア拡大
(16)地元旅館組合、ツアー会社等観光関係者が風評被害を恐れマイナス要因を過小にアナウンスする傾向→観光客目線での安全配慮が必要
(17)ヒグマの春熊駆除禁止がもたらす個体数増加と人里侵入の問題
(18)ブナの豊作年は7〜10年に1回程度であった。つまり、7〜10年に1度という緩い周期でツキノワグマの個体数が増加していた。ブナにとっても、その周期で極相林が維持出来ていたことが窺える。
(19)減反政策による耕作放棄地の増加→イノシシ、シカ類、クマ類の個体数増加、生息エリア拡大
3、過去10〜20年前からの確認事項…対象エリアは新潟〜北関東〜奥羽山脈
(1)東日本大震災以後、捕獲した野生動物のセシウム等放射性物質の検査(原子力災害対策特別措置法)が必要→山菜、キノコ採集、狩猟者の減少→ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマの個体数増加、生息エリア拡大、人馴れ個体増加
(2)(1)の影響もあるが、キノコの原木・薪炭の需要減少と伐採者の減少によりナラ・クリ・サクラ類の伐採延期が進み高木化→クマ類のエサ場増加・生息エリア拡大
(3)大径木(高木)の増加→カシノナガキクイムシ(ナラ菌)の増加→ナラ枯れ→大木の堅果類減少→倒木更新に伴う新芽をシカ類が捕食→森の形成困難→クマ類のエサ場減少
(4)新型コロナウィルス感染症拡大→登山者、釣り人、観光客等山へ入る人が激減→イノシシ、シカ類、クマ類の生息エリア拡大、人馴れ個体増加
(5)ハンターの高齢化・減少→イノシシ、シカ類、クマ類の個体数増加、生息エリア拡大、人馴れ個体増加
(6)ラニーニャ期は例年並の降雪量だが暖冬傾向で夏場の暑さが増し、雪解けが早い→クマ類の冬眠期間縮小の可能性
(7)ブナの豊作年が5〜6年程度の周期となり、ツキノワグマの出産数増加の周期が早まる。
(8)減反政策による耕作放棄地の増加、山際における転作穀類の増加、兼業農家の管理問題→イノシシ、シカ類、クマ類の個体数増加、生息エリア拡大
4、本年〜5年 秋田県の場合
(1) 主なクマ被害事件
① 2024年11月30日秋田市内のスーパーに2日間居座り肉売場を荒らし、1人負傷。
② 2025年10月4日美郷町の畳店に親子グマ3頭が居座る。
③ 2025年10月20日湯沢駅近くにて4人負傷のうえ家屋内に1頭が6日間居座る。
④ 2025年10月22日横手市役所前の横手川に親子グマ3頭が住み着いたため緊急銃猟。
⑤ 2025年10月24日東成瀬村にて農作業中クマ1頭に襲われ1人死亡、3人重傷。
⑥ 2025年11月3日湯沢市にてキノコ採り中クマ1頭に襲われ1人死亡。
⑦ 2025年11月16日能代市のスーパーイオンにクマ1頭が居座る。
(2) 近年の状況
① 2023年、2025年のブナ科の果実凶作と異常出没は連動するが、2021年の凶作年に異常出没は認められない。2024年はブナ豊作年であったが、秋田市内のスーパーに55時間居座る事件が発生するなど秋田県内は豊作年でも人里に出没するため、地元民としては油断が出来ない状況。
② 秋田県に限らずブナの豊凶が30年前は7〜8年に1回豊作年と言われており、自分もそのように教わっていた。それが、10年程前になると5〜6年周期に1回の豊作年、ここ数年は隔年周期に。下記⑦にある降雪量の状況に似ており、温暖化の影響も考えられる。
クマ類は着床遅延という特異な性質を有しており、豊作年にクマの妊娠率が上がり出産数が翌年増加することから、ここ数年で爆発的に個体数が増加した可能性がある。
ブナの豊凶がいわゆる窒素説にいう窒素に依存する理由は分かるが、隔年周期の豊凶をもたらす原因かというとそこまでのエビデンスは明らかではない。
現在の豊凶予測は窒素ではなく目視であり予測方法として成立していなのですから、そうなるとブナの生き残り戦略として果実を捕食する動物の個体数を減らすために凶作年を続け、豊作年に一気に芽吹かせれば良いという説があるが、そのようにブナの意志によって捕食動物の個体数調整が出来ているかというとそうはなっていない。なぜなら、シカ類もクマ類もブナが凶作でも増殖し続けられる方法を知ってしまっているからです。
一つ言えることは、ブナの豊凶に関する過去の仮説が当てはまらなくなっているほど、ブナは厳しい環境下にあり極相林を維持するためにギリギリの策として現状隔年周期に結果としてなっており、異常事態であることが窺える。
③ カシノナガキクイムシ(ナラ菌)の増加によるナラ枯れの問題は県南・県央・県北など発生エリアと異常出没との関連性は考えられるが、ナラ枯れにより豊凶の発表が近年なされておらずミズナラの枯死状況は不明。2018年までブナの凶作年を補完するミズナラは、秋田県内のどのエリアでも安定して豊作だったが、2019年以降大館・田沢湖を除きナラ枯れにより調査がなされておりません。短期的にはツキノワグマにとってエサ不足となるが、中期的には先駆植生のバラ科植物の繁殖により果実のイチゴやヤマブドウ等に代替されるため影響は小規模と考えられる。何かが減少すれば何かが進出してくる。昔、奥日光におけるオオシラビソの縞枯れが問題となったが、今は幼樹がニョキニョキ出ており普通に森を形成している。ただし、問題は新芽を食べてしまうニホンジカが相変わらず多数生息していること。
④ ニホンジカとの関係
秋田県は昭和初期に絶滅、平成21年に確認されるまで絶滅危惧種扱いでカモシカより少ない個体数→豪雪地帯のため繁殖しづらく他県ほどニホンジカによる食害は少なく、令和5年の捕獲数も204頭と少ない→宮城県におけるニホンジカ牡鹿半島個体群、岩手県五葉山個体群の増加が奥羽山脈を経由して秋田県にて繁殖・移動し影響を及ぼしているとは考え難い→秋田県内においてニホンジカの個体数増加による食糧の奪い合い、ツキノワグマが肉食化したと結論づけるには根拠が乏しい→そもそもオスは繁殖期に子グマを食べてしまう習性があり、食の好みは個体差が激しく超偏食家。肉食は潜在的に有する性質と言え、その点がヒグマとエゾシカの関係と異なる→しかし、他県でニホンジカと競合しエサに窮しているツキノワグマが、競合がなく食糧のある秋田県へ移動してきた可能性はある。
⑤ カモシカとの関係
秋田県での農業被害は平成8年をピークに減少に転じ、平成 20 年代以降はほとんど発生を抑えられている。林業被害についてもスギ造林面積の縮小に伴い、食害を受けやすい若齢林(Ⅰ、Ⅱ齢級林、10 年生以下の幼木)が減少したため、平成 19 年以降被害は発生していない→カモシカの個体数増加によりツキノワグマが肉食化したと結論づけるには至っていないものと考える。
⑥ 人口減少とクマ被害、目撃数の増加
2025年10月において87万人台、人口減少率は2025年10月時点で全国一の高さ、出生率は2025年10月時点で30年連続全国最下位→関係が少なからず認められる
⑦ 降雪量との関係
2023年12月~2024年3月の降雪量は過去最低だが、2024年のクマ被害・目撃数は2023年、2025年より少ない→1〜2月に積雪量0の異常シーズンが発生→
冬眠明けは明らかに早くなると考えられる。
データだけで分析すると見誤ってしまうが、同じ降雪量でも雪質が変わってきている。秋田県や北海道内のスキー場で滑っていても、除雪作業のオペレーターの話しを聞いても明らかに雪質の変化(湿雪化)が進行しており雪解けが早い。そのため、降雪量は例年レベルであるにも関わらず、2025年は秋田県で渇水問題が発生した。
⑧ 減反政策に伴う耕作放棄地の増加(山際から休耕する)、飼料米・転作穀類・兼業農家増による管理問題。→減反政策がクマ問題に重大な影響を及ぼしているものと考える→学者・研究者・国営(独立行政法人等含む)機関は国・自治体から研究費を受ける(請ける)ため、減反政策を原因とする耕作放棄地の増大問題を出没理由に掲げていない→忖度し過ぎではと感じてならない。
⑨ 収穫後に伸びた2番穂がツキノワグマの食糧源となっている可能性→米以外に蕎麦、麦も同様に捕食されている可能性が高く、収穫後の田おこしが必須と考える。個人の場合、資金的に実施出来ないケースも考えられるため、畦や水路・河川法面の除草作業だけでなく田おこしに関してもクマ対策予算を充てる必要がある。
⑩ 重点対策地が県北に偏り、県央県南でのクマ対策が広まっていない。
5、本年の異常出没原因
(1)上記2、3、4(2)の要因が積み重なり、山ではクマの個体数が増加の一途を辿っており溢れかかっている状況。
(2)スイッチは今夏の異常高温による草本・木本の枯死、生育不良、結実不良によるエサ不足。
Ⅲ 提言
1、保護政策の転換
駆除による個体数調整を主軸にし、捕獲後の放獣(調査等含む)は人里・山際への出没がなくなるまで停止し、法令通達において放獣とされているものは、改正すること。
2、減反政策の見直し
緩衝地帯における耕作放棄地が増加した主因であり、今日における様々な問題を総合勘案しても、変更すべき政策と考える。
参考文献
「ツキノワグマの大量出没に関する調査報告書」自然環境研究センター、2005年3月
「JBN緊急クマシンポジウム&ワークショップ報告書」日本クマネットワーク、2007年11月
「ヒグマと共に生きる未来を考える」知床財団・日本クマネットワーク、2008年10月
「ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する」森林総合研究所、2011年2月
「特集 深刻化するシカ問題-各地の報告から-」日本森林学会、2011年2月
「群馬県における平成22年度ツキノワグマ出没状況について」群馬県立自然史博物館、2011年
「クマ類の放獣に関するガイドライン」日本哺乳類学会、2015年
「クマ類の出没対応マニュアル-改訂版-」環境省自然環境局、2021年3月
「尾瀬国立公園ツキノワグマ出没対応マニュアル」尾瀬国立公園ツキノワグマ対策協議会、2025年4月
「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(第6次ツキノワグマ)」秋田県、2025年3月
「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(素案)(第3次ニホンジカ)」秋田県、2025年3月
「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(第5次ニホンカモシカ)」秋田県、2022年3月
「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(第5次ニホンザル)」秋田県、2022年3月
「第6次シカ管理計画」岩手県、2022年3月
「岩手県におけるニホンジカの増加に伴うオオバナノエンレイソウ南限個体群の衰退」真崎 開・富松 裕、2024年
「ニホンジカに関する各種データ」宮城県環境生活部自然保護課、2022年7月
「シカ個体群の歴史から自然生態系保全を考える-経緯を知ると見えてくるもの-」北海道大学北方生物圏フィールド科学センター和歌山研究林、揚妻直樹、2015年2月
「ブナ・ミズナラ結実状況調査結果(2002〜2025)」秋田県林業研究研修センター、2025年11月
「ブナ2026年豊凶予報」秋田県林業研究研修センター、2025年11月
「令和7年度のブナの開花状況と結実予測について」東北森林管理局、2025年7月
「令和7年度のブナの結実状況について」東北森林管理局、2025年11月
「秋田県の人口と世帯(月報)」秋田県企画振興部調査統計課生活統計チーム、2025年10月
「ナラ枯れの被害を防ごう」秋田県林業研究研修センター、2020年3月
「野生鳥獣肉の出荷制限等の状況」農林水産省、2025年10月
「クマ被害対策パッケージ」クマ被害対策等に関する関係閣僚会議、2025年11月
つづく


